事故処理ノート
事故事例や判例につき、組合員の皆さまの
ご参考になる特徴的なケースをご紹介しております。
私病混入につき因果関係が争われた事例
- 事故と傷害と概要
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本件は、片側二車線道路(交差点手前から右折レーンが敷かれた三車線となる)の第一車線を赤信号で交差点進入した組合員車と対抗車線を右折した被害車両が交差点内で衝突し、被害車両運転の女性が頸部挫傷、腰部挫傷、右手捻挫等の傷害を負い、10か月間の通院後、14級相当の後遺障害が認定されました。
- 本件の争点と判決の結果
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本件の主な争いは、被害者の怪我と事故との因果関係でした。
被害者は頸部挫傷、腰部挫傷、右手捻挫の診断を受け治療を続けていましたが、事故から5ヶ月経った頃、腹部内に出血(診断名は腹直筋血腫)があり、その治療のため入院するとともに介護職の仕事を休んだものでした。
被害者は、事故により腹部へ損傷を受けたものであるが、内出血として症状が判明した時期が5ヶ月後になったのであり、本件事故と受傷との間には因果関係があると主張し、頸部挫傷、腰部挫傷、右手捻挫の治療に関わる損害に加えて、腹部内出血に関わる治療費、休業損害等を併せて請求する訴訟を提起しました。
当組合は、事故直後に症状がないものが事故後5ヶ月を経過してから発症するのはおかしい、腹部内出血は事故以外の原因で発症したものと考えられるためそれに関わる損害は認められないと反論しました。
裁判では、因果関係を肯定する被害者側医師の所見と、否定する当組合顧問医の意見がぶつかり、医学的な見地で意見を二分することとなりましたが、初診時に自覚症状がなかった点やその際になされた検査で腹部に異常が認められなかった点を理路整然と主張していく中で、裁判官の心証が当組合側に傾き、腹部内出血に関わる損害を否認する内容で和解が成立しました。
本件では、傷害は事故直後の症状が最も重篤で次第に軽快していくものだという考えをベースに、診断書や検査資料の精査、顧問医の意見書による主張の補強等をおこなうことで優勢に裁判を進めることができました。
今回は事故から月日をおいて傷病が発症したことで私病の混入を容易に疑うことができましたが、事故と私病の発症が近接した場合は混入を見分けにくいことがあります。その場合、事故態様や加害・被害車両の損害状況、被害者の乗車位置、受傷後の自覚症状などが大変有益な情報となりますので、お気づきの点は何なりとご提供いただきますようよろしくお願いいたします。