事故処理ノート

事故事例や判例につき、組合員の皆さまのご参考になる特徴的なケースをご紹介しております。

ガウジ痕が決め手に ―― 双方死亡事故の原因調査

事故の概要

本件事故は、深夜の国道を家路に向かっていた乗用車と対向の組合員車が正面衝突したうえ、双方の運転者がその場で死亡するという凄惨な事故でした。




本件事故の問題点と経過

本件事故は、「どちらの車がセンターラインを越えたのか」が焦点になりましたが、双方死亡のため本人聴取ができません。あとは、現場検証に基づく実況見分調書、目撃者証言、ドライブレコーダー、あるいいは道路監視カメラの解析により判断することになりますが、本件の場合、実況見分調書以外の証拠資料がなかったため、実況見分調書を分析してセンターラインを超えた車両を特定することにしました。

ところが、取り寄せた実況見分調書を見ても、何れの車両がセンタ-ラインを超えたかを判断するのは困難でした。そこで、自動車損害調査鑑定人及び大学で教壇に立つ自動車交通機械工学博士に事故の原因調査を依頼することにしました。その結果、鑑定人、工学博士ともに「組合員車がセンターラインを超えた。」と断定しました。

一番の決め手は、乗用車側の路面に残された“ガウジ痕”(タイヤゴム以外の硬いボディなどが路面に当り、舗装にえぐれたような傷を残す痕)からでした。もちろん、実況見分調書のほかに双方車両の損傷面や現象面から衝突状況を解析しました。

また、コンピュータ・シミュレーションを駆使した衝突再現実験も行い、乗用車側に残された“ガウジ痕”より、真っ直ぐ走っていた乗用車に何らかの事情でセンターラインを越えた組合員車が衝突し、乗用車は半回転しながら強く押し戻され、その際、タイヤホイールで路面を削ったことが判明したのです。したがって、本件事故の過失責任は全て組合員にあると判断しました。

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解決の内容

その一方で当方は、互いの当事者から自賠責保険に対し被害者請求してもらうことにしました。その結果、自賠責保険(損害保険料率算出機構)は、双方の遺族側に事情聴取や実況見分調書等をもとに調査を行い、乗用車の運転者側に3,000万円を支払い、組合員の運転者側には重過失減額30%控除のうえ2,100万円を支払いました。これは、自賠責保険においても、組合員車がセンタ-ラインを超えたであろうと推定しつつも、決定的な状況判断ができなかったためであろうと推測されます。

死亡事故では多くのケ-スで遺族側が訴訟提起し、損害賠償額について徹底的に争うことになりますが、本件においては、相手方の遺族が委任した弁護士と示談交渉を行うことになりました。相手方は41歳の男性で、配偶者及び18歳の娘を持つ一家の支柱でしたから、交渉は難航すると予想していました。ところが結果的には、当方の任意査定基準額で合意に至り解決できました。