事故処理ノート

事故事例や判例につき、組合員の皆さまのご参考になる特徴的なケースをご紹介しております。

統合失調症で生活保護受給中の被害者との示談交渉の事例

事故の概要

本件事故は、真夏の早朝、組合員車が走行中、前方不注意により、道路の左側を走行していた男性(58歳)の自転車に追突したものです。相手方は右上腕骨骨折、頭部・腹部打撲等の傷害を負い、約2ヶ月間入院しました。その後約1年半通院したものの、骨癒合が得られず偽関節を形成した結果、右上腕骨の変形、機能障害等の併合7級の後遺障害が残りました。


示談交渉における問題点と経過

相手方の男性は、既往症として統合失調症により判断能力が不十分な状態であり、事故当時は就労しておらず生活保護を受給していました。また、親や兄弟姉妹、その他の親族もおらず、全く身寄りのない状態であったことから、損害賠償の交渉にあたっては、市役所の生活福祉課の職員が窓口となって進めました。

本来であれば後遺障害等級が確定した時点で、示談交渉に入るのですが、相手方は、統合失調症により判断能力が欠けているのが通常の状態であるため、その法律行為は取消す事ができ、有効に示談解決を行うためには成年後見人を決めてもらうことが必要でした。成年後見人の選任については、相手方に親族がいない場合、住所地の市長が申立人となり家庭裁判所に申し立てを行うこととなります。

今回の場合、市役所の生活福祉課の職員を通じ、市長を申立人として手続きを進めることにしました。そして、半年以上の月日を要しましたが、家庭裁判所の審理を経て成年後見人が決まりました。そこで、当組合は登記事項証明書(※1)を取り付け、成年被後見人および成年後見人を確認したうえで、示談交渉を開始しました。

示談交渉については、相手方は生活保護受給者であるため、損害賠償金が収入と見なされ生活保護を打ち切られてしまうことを恐れて多くの損害賠償を望んでいなかったこともあり、当方の提示額にて示談することができました。

高齢化社会が進み、交通事故の被害者にも高齢者の占める割合が多くなっています。なかには親族がおらず、認知症などで判断能力が欠けている方もおられるかと思いますので、今後、今回のケースの様に成年後見人と示談を行うシーンも多くなるのではないでしょうか。

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※注釈※

※成年後見人制度
認知症や知的障害、精神障害などの理由で判断能力の不十分な方は、不動産や預貯金などの財産を管理したり、身のまわりの世話のために介護などのサービスや施設への入所に関する契約を結んだり、遺産分割の協議をしたりする必要があっても、自分でこれらのことをするのが難しい場合があります。また、自分に不利益な契約であってもよく判断ができずに契約を結んでしまい、悪徳商法の被害にあうおそれもあります。このような判断能力の不十分な方が不利益を被らないように 家庭裁判所に申立てをして、その方を援助してくれる人を付けてもらう制度です。

※1 …登記事項証明書とは、コンピュータ化した登記所において発行される登記記録事項の全部又は一部を証明した書面のことで、後見登記等においては、成年被後見人、成年後見人等の住所・氏名,成年後見人等の権限の範囲、任意後見契約の内容などを証明するものです。