事故処理ノート

事故事例や判例につき、組合員の皆さまのご参考になる特徴的なケースをご紹介しております。

外傷性ストレス障害(PTSD)、うつ病になったと長期入通院した事例

心的外傷後ストレス障害(PTSD)

心的外傷後ストレス障害(PTSD)という言葉は、 阪神大震災以降、 自然災害の被災者や凶悪事件の被害者などの心の傷として広く知られるようになってきました。 被災者、被害者が激しいストレスにさらされた後、 何らかのきっかけでその光景がありありとよみがえってきたり(フラッシュバック)、 悪夢にうなされて不眠になったり、 びくびくと不安 ・ 緊張の強い状態が続くなど、 さまざまな症状が出るのがPTSDです。交通事故後にPTSDと診断される事例も増えてきています。 この場合に、 PTSDの診断基準のあいまいさ、 交通事故との因果関係などが問題となります。 概して医師の診断書は緩やかに拡大して書かれる傾向がありますが、 裁判ではPTSDに該当するかの 判断基準を厳密に適用するのが主流とな っています。 次に見る当組合の事故例も こうしたケースでした。

事故の概要と経過

この事故は、 平成15年7月、 組合員車が相手方車両に追突したもので、 運転していた被害者は頚椎捻挫、 頚椎椎間板ヘルニア等により入院、 通院治療を受けました。 その後、 被害者はうつ病を訴え、 9か月後には外傷性ストレス障害の診断名が追加され、 2年8か月の間入通院を繰りかえした結果、 局部の神経症状および外傷性神経症として14級の後遺障害が認定されました。 相手方は、 交通事故によりPTSDを発症し9級相当の後遺障害が残ったとして、 損害賠償4,500万円余を請求する訴訟に及んだものです。

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本件の争点

この事件では、 本件交通事故によって外傷性ストレス障害(PTSD)が発症したのか、 が主に争われました。 当組合側は、 診断書やカルテを証拠書類として提出し、 当組合顧問医の意見などを踏まえて、 頚椎捻挫が発生する程度の事故では通常PTSDが生するものではなく、 本件事故は追突であってPTSDの心的外傷体験の基準には該当しない、 また、 客観的資料からみて長期の治療を要する外傷ではなかったと主張しました。

裁判所の結果

裁判所は、 PTS Dが発症する原因となる体験は、「実際に死ぬ又は危うく死ぬ、 または重傷を負うような出来事」ないし「ほとんど誰にでも大きな苦悩を引き起こすような、 例外的に著しく驚異的な、 あるいは破局的な性質を持ったストレスの強い出来事」とされ、 本件事故がPTSDの発症原因となる体験とはいえない、 また、 うつ病についても交通事故との因果関係はないとして、 被害者が負った傷害は頚椎捻挫であり、 治療期間についても事故後7か月 間が相当であると認定しました。
この判決を不服として、相手側は控訴しましたが、 控訴審判決においても、交通事故によるPTSDおよびうつ病の発症は認められす、 既払額800万円余を除き200万円余を支払うことで結審しました。